政宗九の視点Blog

ミステリなどの本について、またAKB48(というか主にHKT48)について書いていく予定です

児玉清さんの文庫解説は「書き出し」が素晴らしい/『ひたすら面白い小説が読みたくて』

一昨年亡くなられた俳優・児玉清さんは読書家として有名でした。文庫解説も熱いものが多くて、それを集めた本が出ないかなあ、と思っていたところに、まさにそんなコンセプトの本、『ひたすら面白い小説が読みたくて』(中央公論新社が出ました。

児玉さんの文庫解説が一気に読めるのですが、どれも本当に面白そうで、解説としての役割を最高な形で示しているものばかりです。読んでいて思うのですが、いわゆる「評論家」としての分析ではなく、一読者として、その小説を心底楽しんで、その面白さを一人でも多くの人に知らせたい、という熱意が伝わるものばかりでした。

児玉清さんの解説では特に「書き出し」がいいですね。児玉さんが本当に楽しんでいる様子が伝わりますし、わずか数行で一気に読者を掴んでしまいます。

いくつか印象的な文庫解説の「書き出し」を紹介してみます。

 

あさのあつこ『弥勒の月』
まずは、あさのあつこさんの初めての時代小説『弥勒の月』へようこそ。あなたはきっときっと深く深くそして熱く心を揺すられるに違いない。

荒山徹『柳生薔薇剣』
読みはじめてすぐに僕は、新しい金の鉱脈を掘り当てたような歓喜に包まれた。『柳生薔薇剣』のあまりの面白さに舌舐利する思いで宙に向かってヤッホーと叫んだほどだ。これぞ僕が待ち望んでいた面白時代小説の一冊だと心の中で大きく合点したからだ。

上橋菜穂子『神の守り人』
守り人シリーズ」にようこそとまず申しあげたい。なぜならば、この本を手にしたあなたはきっと至福の一時を過すことまちがいないからだ。

北方謙三『鬼哭の剣』
男を描かせたら、この人の右に出る者は無いといえる作家、北方謙三が、まさに円熟の筆をふるって、縦横無尽に描き上げた剣豪小説を読まないのは、最高にもったいないことですぞ。

幸田真音『日本国債』
『日本国債』という、そのものズバリのなにやら得体の知れない固苦しいタイトルを見て、この本に手を出しかねた人もいるかもしれないが、読んだ人は、きっと、これほど面白くて、しかもためになる本にはめったにお目にかかれないぞ、と至福の時を過したに違いない。

佐伯泰英『攘夷 交代寄合伊那衆異聞』
読書の楽しさ、小説を読む喜びをこれほど見事なまでに与えてくれる作家がいてくれるとは。毎回。読了後、満足感と至福の気持で次作を待ち侘びるということになる佐伯泰英書下ろし時代小説は、僕の人生にとって最高に嬉しく有り難い存在なのだ。

玉岡かおる『天涯の船』
好みの滅茶面白小説に出逢えたときの喜びは爆発的なものがあるが、世の中にはそうそう滅茶面白小説が転がっている訳じゃない。それだけに『天涯の船』を読んだときの喜びは、それこそ天に昇る気持ちだったのだ。

百田尚樹『永遠の0』
心を洗われるような感動的な出来事や素晴らしい人間と出逢いたいと、常に心の底から望んでいても、現実の世界、日常生活の中ではめったに出逢えるものではない。しかし、確実に出逢える場所がこの世にある。その場所とは、本の世界、つまり読書の世界だ。もっと場所を小さく限定すれば、小説(フィクション)の世界と言っていい。

万城目学鹿男あをによし
小説の面白さは、時々刻々膨張を続ける宇宙のように新たなる未知の世界へと読者を誘う。そんな想いにとらわれたのが、本書『鹿男あをによし』の爆発的な面白さに狂喜したときだった。

宮部みゆき『狐宿の人』
良き友、素敵な僕の人生の友を紹介しよう。と、いきなり書いてしまったが、『狐宿の人』は、僕にとって素晴らしき仲間の一人といった、そんな感じの嬉しい物語なのだ。たった今、この本を読み終えた人は、きっと、深い感動に捕らわれているに違いない。そして素敵な友と出逢えた喜びに似た不思議な心の高揚を身内に感じていることと思う。

和田竜『忍びの国』
痛快無比、超のつく面白忍法小説に出逢いたいものだ、と長い間、新人作家の登場を待ち望んでいたが、ついにその念願を叶えることができた。本作『忍びの国』は僕が待ちに待った忍法小説。きっとあなたも大満足してくれると思う。

アダム・ファウラー『数学的にありえない』
ハッブル宇宙望遠鏡でお馴染みのアメリカの天文学者、エドウィン・パウエル・ハッブル博士の言葉“宇宙は今日も膨張を続けている”ではないが、小説の面白さも限りなく膨張を続けていることを心底確信して、震えるほどの喜びに浸ったのが、本書『数学的にありえない』であった。

 

児玉さんの夢中ぶりが伝わる、いい書き出しばかりですね。

次に読む本に困ったら、児玉さんの解説を参考にしようかなと思った次第です。