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政宗九の視点Blog

ミステリなどの本について、またAKB48(というか主にHKT48)について書いていく予定です

「東西ミステリーベスト100」(旧版)の北村薫さんの解説を一気に読むとやっぱり凄い

北村薫さんのエッセイ集『読まずにはいられない』が年末に発売された。

読まずにはいられない: 北村薫のエッセイ

読まずにはいられない: 北村薫のエッセイ


文庫解説をはじめ、雑誌などに寄稿されたエッセイが集大成されているのだが、本書には、あの伝説の文庫『東西ミステリーベスト100』に北村さんが寄稿されたストーリー解説と「うんちく」も収録されている。

昨年秋に新版のオールタイムベスト「東西ミステリーベスト100」が発表・発売されている、その26年前に出た文春文庫版だ。新版で北村さんと折原一さんの対談が載っているが、そこで旧版の原稿執筆のエピソードが紹介されている。当時のワセミスの先輩・瀬戸川猛資さんから緊急の仕事として執筆を分担させられた、という話で、そこで北村さんと折原さんが担当された作品が明示されている。
『読まずにはいられない』には、そのうちの北村さん担当分が完全収録されている。一気に読むと、なるほどこれは北村さんらしい、と思える文章だったり、やけに印象に残っていたりする文章だなあと改めて思う。
例えば海外編17位のアイラ・レヴィン『死の接吻』のこの一節。
「優れた倒叙小説でありながら、第一部で主人公を「彼」とすることにより、中間部では犯人探しになるという心憎い着想にも舌を巻かされる。そのあたりを説明しすぎるわけにはいかないが、要するに、寝ながら読んでいると途中で思わず起き上がる本なのである。」
この「寝ながら読んでいると途中で思わず起き上がる」という表現は私も絶賛する際に時々使わせていただいている。このフレーズは誰かの影響なんだよなあ、とずっと思っていたが、北村さんとは思わなかった。
もうひとつ特筆すべきは、鮎川哲也の項。8位『黒いトランク』で書かれていたこの一節。
鮎川哲也は、彼を愛する多くの読者を持っている。「鮎川哲也長編推理小説全集」が出始めたとき、各配本ごとに必ず二冊ずつ買っている人がいた。その人曰く、「鮎川を理解してくれる、これならという人に会ったとき、揃いで渡すためです」。これは、もはや布教活動である。」
この「必ず二冊ずつ買っているファン」が北村さんご本人のことである、というのは割と有名な話だと思う。私も聞いたことがあった。しかし他の鮎川の項でも、それ自分のこと書いてるでしょ、と思われるフレーズに出会うのである。
37位『黒い白鳥』「ところで二十数年前、ある大新聞に、小説の題についての文章が載った。そのなかに、読みもせずに書かれた、白鳥が黒いなどとはおかしなことだ、という噴飯ものの一節があった。鮎川ファンはいまだに怒り、かつその愚劣さを笑うのである。」
48位『りら荘事件』「「先生は、いつもの違うこの作品を、うなりながら書いたんだろうな」と一人決めしていた読者が、「本編は別に苦労をせずに書き上げました」という鮎川の言葉を読んで驚き、会ったときわざわざ「意外でした」と報告したそうである。」
いやあ、味わい深いですね。